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サニー、アルバーン離れするってよ

かいな

「サニー、もう一度言ってくれ」

「俺、アルバーン離れする」

「浮奇、コイツよく出来たサニーの偽物だぞ。それか俺たちがタチの悪い夢を見てるんだ」

「残念ながらどちらでもないよふーちゃん」

「言いたい放題言いすぎだろ」

「この際ハッキリ言うけど無理だと思うよ?」

「そうだぞ。諦めたほうがいい」

「なんで!?」

 

困った顔の割にきっぱりと言い切った浮奇と真顔のファルガーに、サニーは情けない悲鳴を上げる。「・・・一度胸に手をあててよく考えてみろ」とファルガーが言うと、サニーは頭上に?を浮かべたので、マジか・・・と二人は遠い目をした。

 

深夜。Noctyxの三人はいつものBARにいた。

事の始まりはサニーから送られてきたチャットのメッセージ。『緊急で集まりたい』と書かれた一言に、直ぐに浮奇が反応してこの場を提供した。しかし、いざ集まってみればそこにアルバーンの姿はなく、いくら経っても来る様子もない。もしや、アルバーンの身に何かあったのだろうか。ファルガーと浮奇の間にピリッと緊張が走った。

アルバーンは普段から単独行動が多い。しかし、それは仲間を想い率先して動いているのが常だからだ。その反面、心配されるのが苦手なのか怪我をしたら身を隠すし最悪逃げる。捕まえて叱ってやっと渋々といった様子で手当を受けるなんてざらで、なんでもかんでも一人で抱え込んでしまうアルバーンを仲間で家族だと思っているファルガー達が心配することは当たり前のことだった。

 

怪我をしてるのだろうか、何処かに身を潜めているのだろうか、ただ平然としているサニーの様子から見て多分無事ではあるのだろう。だって、サニーはアルバーンのことに対して人一倍敏感だ。もし彼が怪我をしたのなら、絶対にそばを離れることはしないはず。

 

そして、集まって早々に「あ、今日のことはアルバーンには内緒で。今日カフェでバイトだって」というサニーの発言に、二人は内心胸を撫で下ろした。


 

閑話休題。


 

「もっと真っ当な冗談を言え」

「アルバーン離れって、サニーには無理だよ」

「無理じゃない!え、無理じゃないよな?」

「そこは断言しろ」

「そもそもなんでサニーは、アルバーン離れしようと思ったの?」

 

浮奇の言葉にサニーはぴたりと動きを止めた。

浮奇が疑問に思うのは当然のことだ。アルバーンを溺愛してるあのサニーが『アルバーン離れする』なんてとんだ冗談言うものだからファルガーもこのサニーは偽物かもしれないと思ったのだ。しかし、一方で喧嘩でもしたのか?珍しいなと思っていた所で、サニーはおずおずと口を開いた。小洒落たジャズのBGMとサニーの声に耳を傾ける。ファルガーと浮奇はサニーが話が終わると揃って顔を見合わせた。



 

**



 

「サニー、大丈夫?」

「無理」


 

​──数日後、いつものBARにて。

この店のマスターである浮奇はカウンターに突っ伏すサニーにそっと水の入ったグラスを差し出した。

 

「無理」

 

グラスを受け取るも、それに目もくれることなく横にずらすとサニーは死にそうな声で再度呟いた。

 

「あるばんに会いたい」

「アルバにゃん離れするんだろ」

「無理だよ!なんで我慢できると思ったこの前の俺!ちょっと、いやかなり普通にこれ辛い。隠し撮りしたアルバーンもすごく可愛いんだけど、俺だけにはにかむ超可愛い姿とかちょっと頬っぺた赤くして照れる姿が今見たいんだよ!『頑張ったねサニー、よしよし』って頭ナデナデして欲しい。今日夢に出てきてくれないと狂いそう。・・・」

「オイなんだ後半」

 

愚痴の後半は確実にサニーの妄想が入っていた。昼から店の手伝いに来ていたファルガーはなんとも言えない顔でツッコミを入れる。開店早々に乗り込んできたサニーに、何事だとザワついた二人だったが話を聞いてみれば、出るわ出るわ情けねー言葉の数々。「アルバーンが足りない」だの「俺の癒しが無い」だのファルガーの知ったことではない。そろそろ鬱陶し·····面倒くさくなってきたファルガーは潰すか、とブランデーを開けた。しかし、サニーはあまり酒に強くなく、ビール二杯で酔っ払ってしまうことを思い出して、結局自分のグラスに注ぐ。

 

「ねぇ、アルビーは今どんな感じなの?」

 

グラスを磨きながら浮奇が尋ねる。ナイスアシスト、と目配せすれば綺麗な笑みが返ってきた。

 

「普段と変わらずって感じ。俺が居なくてもアルバーンは大丈夫みたい。・・・・言葉にしたらもっと辛いな」

「えっと、・・・・なんかごめん」

「ううん、浮奇が悪いわけじゃないから・・」

 

どんどん語尾が小さくなり、哀愁漂う肩を浮奇がぽんぽんと慰めるように叩く。なんとも申し訳なさそうな顔をした浮奇の顔が視界に入ってくる。

 

確かにファルガーも「なんか面白いことしてるね」と笑うアルバーンの姿が脳裏に浮かんだ。猫みたいな気ままな部分があるアルバーンだが、サニーには特別目をかけていたはずだ。しかし、いかんせんファルガーの憶測なのでアルバーンの本心などわからない。

 

「で、このまま続けるのか?それとも止めるか?」

「・・・」

 

サニーがアルバーン離れをする為に実行したことは二つ。連絡を控えることと距離を取ること。忠実にサニーはこれを守っている。たったこれだけ?と思うだろうが、サニーにとっては死ぬほど辛いのだろう。ほぼ毎日何かしら連絡を取り合っていたらしい二人だからこそ、サニーにも大ダメージを負っている。距離を取るのも、内心とても嫌なのだろう。

 

あの夜、三人で集まったBARで最後にサニーは言った。

『​───アルバーンに俺を意識して欲しいんだ』

 

で、思いついたのが『アルバーン離れ』なのだ。

早く告白すればいいじゃないかとファルガーは言った。浮奇も同じ様に思ったのか気持ちを伝えるべきだよ、とアドバイスをしていたが、どうやらサニーはあと一歩踏み込むのが怖いらしい。

 

『だって、振られたら兄弟でも、家族でもいられなくなっちゃうだろ・・・・』

 

もしかして振られるとでも思ってるのか?嘘だろ?とファルガーと浮奇は頭を抱えた。お前達は相思相愛だからさっさとくっつけ!!!!というのが二人の総意なのだが、見込みの無い恋だと思ってるような節がサニーにある。黙り込んでしまった男を眺めながら、ファルガーは一つ思った。恋愛であれ、親愛であれサニーとアルバーンの間には強い絆がある。浮奇やファルガー、四人の絆とは別物だが、サニーの想いが実って欲しいと思うのは烏滸がましいだろうか。アルバーンがサニーをどう想ってるのか分からないが、いい方向に進んでほしいと思う。ファルガーも浮奇も見守ることしかできないこの現状が、ほんの少しだけ歯痒かった。

 

『もしアルバにゃんに恋人が出来たらどうするんだ?』

『埋めるけど?』

『ナニを埋めるんだ隊長。冗談でも怖いぞ』

『見つからないようにね』

 

愛想笑いさえ引っ込めた二人にサニーは真顔で首を傾げた。冗談じゃないんだけどな、と思いながら。



 

***


 

「久々だねサニー、元気だった?」

「う、うん。アルバーンこそ元気?」


 

ふわりと笑うアルバーンはやっぱり可愛い。

ところで、なんで俺は、

 

「で、僕に言うことあるよね?」

 

なんで俺はアルバーンに壁ドンをされてるんだろう。

街での巡回を終えた直帰途中に、向かいの通りから突然現れたアルバーンにサニーはあっという間に捕まった。次は俺がアルバーンを壁に追い詰めて壁ドンしたいな、なんて呑気なことを思いながら、ドキドキと高鳴る胸を抑える。

 

「サニーちゃんと聞いてるの?」

「あの、ちょっと離れてほしいな(身が持たないから)」

「逃げないならいいよ。ねぇ、サニーは僕が嫌い?」

「は!?嫌いなわけないだろ」

「そうなの?てっきり、もう僕のこと嫌いになっちゃったから近づかないんだと思ってたよ」

 

俺がアルバーンを嫌うわけない、むしろ好きすぎてヤバいんだよ、なんて口が裂けても言えるわけない。即座にアルバーンの言葉を否定しつつ、誤解を解こうと考えを巡らせていると、少しだけアルバーンの声のトーンが明るくなった。

 

「なら覚えてて。僕は誰よりも君が好きだから、距離を取られている今がすごく寂しい」

 

決意を込めた瞳で見つめながら静かな声で、最後にへにょりと眉を下げて言うアルバーンに、サニーの中で何かが弾けた。

 

「俺も、あうばんがだいすきで、っ」

「え!?ちょ、ちょっとなんで泣きそうなの!?」

 

「泣きたいのは僕の方なんだけど!?」とアルバーンが叫んでるが、背を撫でる手は酷く優しい。やっぱりアルバーンが好きだとなぁと思う気持ちと勝手に距離を取って彼を寂しがらせた罪悪感とが綯い交ぜになって胸がいっぱいになる。深呼吸してから、サニーは前を向いた。

 

「聞いて欲しいんだ」

「うん、僕もサニーの話聞きたい」

「その、俺に君に意識して欲しくて、わざと連絡を減らしたり、距離を取ったりしてたんだけど」

「・・・・嫌われたかと思った」

「ごめん!それは誤解だから!嫌いじゃないよ、むしろっ​、──い、今だから言うけど俺全然我慢できなくて、あうばんの写真(隠し撮り)で毎日凌いでたんだ。あと少し遅かったら、もうアルバーン不足で死ぬとかと思って、今日会えてほんとに嬉し「え、何そんなことしてたの?」うん。俺、さっきも言ったけど、君に意識して欲しくて、その、好きなんだ。」

「へ?」

「恋人になりたい、って意味の『好き』。兄弟や家族もいいけど俺、アルバーンの恋人になりたい」

 

唖然としていたアルバーンの顔がみるみる間に真っ赤に染まった。視線をあっちこっちに彷徨わせるた後、口元に手をあててちらっとサニーを見る。

 

「サニーってほんと僕のこと大好きすぎない?」

「うん、世界で一番アルバーンが好き」

「僕もサニーが一番大好き!」

 

パッと笑顔になったアルバーンが抱きついてくる。腕が首にまわって、互いの鼻先が触れるくらいに距離が近くなった。二ッと瞳を細めて笑った顔が普段の彼らしくてとっても可愛い。

 

「僕と離れてみてどうだった?僕がいないと寂しい?他の人といると嫉妬する?」

「寂しかったよ、毎日。言っただろアルバーン不足で死ぬかと思ったって。君が俺以外の誰かと過ごしてるんだって考えたらとすごく嫌だったし滅茶苦茶嫉妬した。」

「もしその間に僕が他の人とくっついたり、キスしてたらサニーはどうしてたの?」

「多分そいつを闇討ちしてたと思う」

「物騒だなぁ」

 

ケラケラと一頻り笑った後、アルバーンは耳打ちした。

 

「付き合ったら毎日キスしようね」 

「ま、毎日していいの?」

「いいよ」

「ご、合法?」

「なんで疑問形なの?それに恋人同士になったら、もっとすごいことするのに」

 

腕を掴まれ、掌にアルバーンがスリっ・・・と頬を寄せた。猫の瞳孔みたいに縦に細くなっている瞳にじっと見つめられ、サ二ーはごくり、と無意識に唾を飲み込んだ。

 

「ぐ、具体的には?」

「えっちなこと」

 

えっちなこと。好きな子の声で囁かれた言葉の羅列の破壊力たるや。一瞬でアルバーンのあわれもない姿を想像してしまったサニーは咄嗟に鼻を塞いだ。


 

「ねぇ、僕をサニーの恋人にして」


 

アルバーンは笑いながら、ちゅっ、と俺の鼻先にキスをした。



 

こうして、サニーの『アルバーン離れ』は終わった。

最初から結果はファルガー達が思った通りになった訳だが、サニーとアルバーンは晴れて恋人同士になり、ラブラブな毎日を過ごしている。

しかし、この時のアルバーンはまだ知らなかった。

愛がクソ重い恋人が『取り敢えず結婚を前提に同棲しよう』とエンゲージリングと記入済み婚姻届を用意することを。そして、あまりにも急すぎる展開にパニクったアルバーンが『実家に帰らせていただきます!(※日本語)』と捨て台詞をはいてファルガーと浮奇の家に突撃することも、まだ誰もまだ知らない。



 

****



 

「ここを楽園とする」

「なにそれ」


 

くすくすと笑うアルバーンの項に鼻先にくっ付けて、サニー大きく息を吸い込んだ。ソファに座って背後から覆いかぶさり、陽だまりの匂いとほのかに香るアルバーンの体臭を感じて口元がだらしなく緩む。

 

「サニー、くすぐったいよ」

「離れないって言ったじゃん」

「そうだけどさぁ」

 

「飲み物ぐらい取りに行かせてほしいんだけど」と言っても平気でしらを切るサニーに、アルバーンは困り顔だ。それもそのはず、この男まったく離れないのだ。離れた分を埋めるように、サニーはアルバーンと共にいる時、ほぼゼロに近い距離で必ず身体の一部に触れたがった。隣を譲らないのもそうだが、肩や腰を抱いたり、手を繋いだりと明らかに近い。分かりやすい牽制にファルガーたちも生暖かい目で二人を見つめていた。

 

「言っとくけど、もうアルバーン離れなんか一生しないし絶対離れないから」

「まだそれ言ってるの?わかったっ、ん」

「好き、本当に好きだよあうばん」

「僕も好きだから押し倒さないで、浮奇たちも居るから!ねぇ、だからっ、服を、めくるなっ!!!!」

「俺たちのことは壁だと思ってくれ」

「仲良しだね」

「だってさ」

「いやマジで止めて???」

 

お付き合いを始めてすぐの頃、狼狽えるサニーが可愛くて、でもほんの少し面白くて時折際どく迫ったりもした。特にキスはたくさんして、ついつい興が乗りすぎて、ちゅっちゅっしていたらベッドに押し倒されてしまい、段々と息が荒くなっていた恋人にアルバーンが「あ、やばいかも」と気づいた時には、熱に浮かされたアメジストの瞳と目が合った。

 

『あぅばん、好き、全部ちょうだい』

 

そうして、アルバーンはあっさりと最後まで頂かれてしまった。恋人になったその日から愛情を隠す気がまったくないらしいサニーは、いつなんどきでもアルバーンへ想いをぶつけるようになった。今日だって久々にNoctyxの四人で集まろうとサニーの家でお邪魔しているのだが、ぶっちゃけファルガーと浮奇は二人のイチャイチャを見に来たようなものだ。

 

「さ、サニー!」

「なに」

「あの、恥ずかしいからっ、」

「いいじゃん、壁だと思えば」

 

首筋にリップ音を鳴らしてキスするサニーにアルバーンはタジタジだ。俺たちがいなければもっとイチャイチャしてるのだろうな、とファルガーは推測する。正直、ここでおっぱじめられるのは困るが二人のじゃれあいにワクワクしてたのも事実なのでこの光景を浮奇と一緒に楽しむことした。すると、サニーの腕の中から逃がれようとするアルバーンと目が合った。

 

「も、もう!見ないでっ!見ちゃダメ!」

「はいはい、アルバーンは俺だけみてて」

「んん”──!!!」


 

あ、食われた。

確実に舌入れられてるなアレは。中々刺激の強いキスシーンに隣から「WOW」と小さな歓声が上がる。

 

羞恥心で真っ赤に染まったアルバーンとそれを愛おしそうに見つめるサニー。ああ見えて満更でもないのだろう、アルバーンも。だっていやいや言いながらサニーの服を掴んで離さないんだから。二人が幸せそうに肩を寄せ合う姿をみて、ファルガーは微笑んだ。隣に座っている浮奇も笑っている。

 

俺たちの心の平穏のために、一生イチャついてろバカップル!

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